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「先生もハダカに・・・・・」

 練金術はやわかり 

 あるいは「自殺はやめなさい。」

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by そらしま

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. まず暗い診療室がある。

. 占いの館のようでもある。

. 星々のプリントされたカーテンと黒いシーツのベッドがある。

. 名を呼ばれた患者の女が入室し、医師と対面する。

. 女は怪しげな雰囲気を察して、ここへ来た事を後悔している。

. 医者は診察のための脱衣をそくして無関心を装い回転椅子をくるりと廻し

て机の方を向いてカルテを書いている。

. 女は逃げる訳にもいかず、しかたなくハダカになって椅子に腰掛けた。

. だが医者はこの女を一目見た時からビビビッと感じる初めてなのに懐かし

い「渚のバルコニー」だったので、つい自分もハダカになってしまう。

. 女はあとずさりして黒いベッドに倒れ込む。

. 医者は聴診器をかざしながら女の上に被いかぶさる。

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. 読者諸氏よ、これは日活ロマンポルノではない。

. これは始めの一行で他のサイトへ飛んで行くあなたを引き止める涙ぐまし

い方法なのだ。

. これは錬金術についての論証である。

. そしてなによりも一時間に三人が自殺してしまうこの国(0601)におい

て錬金術が中世にすでに指し示していた人生の、君と同じ障害を乗り越えて

来た先人達の声を明らかにする事で、一人でも多くの自殺の先延ばしを目論

むために書きつづられたのである。

. 一人でももう少し考えて見ようという気になったとしたらそれだけで私の

努力は報われるのだから。

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. だから、ここでは練金術が世間で知られているように「金の製作方法」の

側面には一切触れずに文章が進行する事になるので、その方面に興味のある

向きには不向きである事をあらかじめお断りしておく。私にはそれが非生産

的な瞑想生活を世間の中で営むための、方便としてのお伽話としか映らない

からだ。

. それでは本題に突入するが、そもそも錬金術の大きなテーマ、もっとも言

いたい事は、太古エジプトのエメラルド板に印された「上のものは下のも

の、下のものはうえのもの」と言うヘルメスという聖人の金言に他ならな

い。

. だがそれを読み取ろうと広げた錬金術の比喩やイラストは複雑怪奇で、今

となっては解読の混乱の元となっている。しかしこれは錬金術が扱っている

領域、無意識というシュールな世界の言葉の詩的表現の難解さなのだ。

. 系列を同じくするヘルメスの聖典とも言うべきタロット・カードの占い方

法に、カードの上下逆向きで意味が逆転する解釈があるように(私はその方

法に疑問を持っている、カードの逆向きは正反対の意味を示しているとは思

えない)錬金術の比喩は初めから「上のものは、下のもの」のコンセプトに

よって作られており「対立するものの合一」に忠実であるのだ。したがって

幸運のカードが出たとしても喜んではいけない。幸運は災難を孕んでおり、

それはまもなく訪れる「不運の印」に他ならないからだ。

. 幸運とは不運に依存しているのだ。大穴馬券ははずれ馬券ときっても切れ

ない縁にある。それに又、我々も知らない「不幸なる幸運」も存在する。電

車に乗り遅れた不幸は大事故を免れた救命の大吉かも知れないではないか。

. だからこのように錬金術の文章や図版の逆説に悩まされた時には、ただち

に「上のものは下のもの」に戻って考えてみるべきである。練金術の全体構

造が「対立物の合一」からなっていると言っていいのだ。

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. 錬金術の書はこのように読者をはぐらかす反面、大変親切に色々なケース

にその法則を当てはめて語ってくれている。

. つまり人生での曲面、化学実験的側面、宗教瞑想修行的側面である。勿論

現代においては心理学的側面が重大である。

. 一例をあげると、まず人が第一コンセプトの「対立物の合一」を感得、実

現した場合は「人生での結婚と妊娠」、「化学実験での合金の生成」、「瞑

想での内なる異性との結婚」などが比喩され暗示される。

. そしてその後に来る錬金術の特化したテーマ「ニグレド」と呼ばれる暗

黒、人生の曲り角、化学実験での灰と化した被金属の失敗に見えるさんざん

な結果などである。

. この時点の観察は世界の宗教、神秘主義の中でも錬金術が群を抜いてお

り、それは錬金術のもっとも得意な領域、無意識の探究のたまものである。

. 錬金術は日本においては平安時代の頃には完成されていた精神学であり、

無意識という観念がまだ無い頃の無意識の探究であった。

. 日本の禅宗においても「空なる病気」が設定されてはいるがその対処の仕

方は錬金術のように懇切丁寧ではない。しかしこれは切実な問題でありテー

マなので我々も避けて通るわけにはいかない。禅仏教では空性を悟った後の

「悪平等/アナーキーな平等感」や「野狐禅/悟性的狂気」を実例としてい

ましめ、慈悲と菩薩道による民衆の救済が説かれるが、錬金術のように具体

的、個人的解決方法の提示までは行っていないのだ。

. 錬金術ではこの暗闇「ニグレド」の中に、炭化した金属の黒い表面上に、

メランコリーな自殺願望の中に、孔雀色の光彩がある事を仄めかす。

. それは絶望からの脱出の可能性であり、希望の色彩である。錬金術ではこ

の後のステージに確実に赤色の朝焼けと、白色の夜明けの到来を設定してい

る。

. 苦労して購入したマイホームに憧れのあの子を招き入れ、最大限に自分を

殺した苦労の果て、結婚までやっとの思いで辿り着き、子供も出来てやれや

れと思った矢先に遣って来る鬱な暗闇は、人生の目標を無くしたマイホーム

パパの進行方向壊失の危機だったのだ。

. それこそ日本の伝統演劇にも貫かれているテーマである「無常感」の悟性

(しかしこれとて獲得する事は一般には難しい)の後に遣って来る「暗国の

大魔王のおさそい」だった。

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