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小説   ゆ  め  つ  な  み

.第一章

エピローグ epilogue

01

東 京 TOKYO 0 FLOOR 零 階
by SORASIMA

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のそのそと 音づれる 東京不音

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. 最早、都心は人間の住む所ではなくなっている。嫉妬心が渦巻き、八百屋も魚屋も無い。煩雑にタバコを吸う事は犯罪化してしまった。トイレなどという金にならないものは出来るだけ中心部に入れないよう排除されている。いやいや、方所にトイレがない訳ではない。コンビニが商売の所場代として、いやいやその社会的責任を補償している。どこへいっても中国語が飛び交っているその中へ、浦島は久々に出てみて、想像以上に疲れてしまったのだ。見えない敵が多すぎる。自分の都市適応性がこんなにも衰弱しているとは思わなかった。これはどうも歳のせいだけではあるまい。明らかにここ10年で変化した都市のせいだ。

. 金の事ばかり考えていて、いざ金廻りが悪くなった時の虚脱感が充満している。かといってそれに替わる価値観を調達して、それが活気づいている訳でも無い。

. 私がことさら、事あるごとに芸術論を言い出すのも、芸術も存在意義をなくそうとしていて、先が欠けた剣のようになっているからで、それはいずれは我々の存在にも影響するであろう先駆けだからだ。

. 芸術が金儲けの手段や、エンターテイメントでしかないならば、もっと高率のいい、分かりやすく面白い事を芸術家はすべきなのだ。だが芸術はそうではない。それは自由への実験であるからだ。仕事や娯楽の制作に自由はない。唯一芸術だけにその可能性があるのだ。世界から芸術を取ったら我々は自由な表現の場を無くしてしまい、そんなものが在ったかどうかも忘れてしまうだろう。「何を遣ってもいい場」は不自由を保証するものとして置いておかれるべきだろう。しかしそれも、一種のヴァ−チャルとしての芸術というフラスコの中での話でしかない。

. ここでまた、ふらふらと、のそのそと、浦島はこの高層ビルのカフェを後にして、エレベーターに乗った。気圧の変化も耳で感じる事無く地上へ出たのだが、そのビルの広場はなんとも気持ちの悪い、マニュアル化された警備と、一夜城的大当たり社員の闊歩する無機的なユートピアだった。

. 浦島は退院する前にありとあらゆる妄想を書き連ねた手記を病院に残して来たが、やはりあれではまだまだ自分の内的な説明にはなっていないストレスを感じていた。

. そこでこんどは日記的に、自分が入院体験から獲得したある能力を使って、つまり霊界に片足を突っ込んでしまった視野で世の中を観察した記録を残してみようと思い立った。

. しかし、この記録は霊界に付属しているのであって、表向きにはリンクし得ないのだ。偶然検索語で迷いこんで来た人にも意味をなさず役には立たないだろう。

. これは地下の小説であって、たまには地上に不定期で顏を出す事はあっても基本的には表には出ないだろう。ゆえに何時も校正の状態にあり、なんの全体的な構想もなく、完結脱稿はしないだろう。この実験小説は、誤解を恐れずに言うならば、一種の「お告げ」によって書かれて行く。「お告げ」とはそらしま的に言うと「共時性」の事である。インターネットが世界に開かれているとしたら、これは内側に開いて行くWebなのだ。

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. 080408

. 世の中は桜の開花で薄ぼんやりしたパステル・ヴァイオレットだ。しかしそれもすぐに強風と春まだ冷たい雨が一掃して、寒々とした現実に立ち返らなければならない。

. 浦島は10年会って無く、最近2回ほど会った娘の家に立ち寄った。娘は浦島がその再会の時に浦島の家から持って行った子猫をやっぱり返すと言いだした。猫はすでに大きくなっていた。しかしそれはねこというより大きなリスのような姿をしており、なんと顏が四角であった。鼻と口がチンのように出ておらず、ほんとうに顏は形にはめたように四角い顔をしていた。浦島はしぶしぶ承諾した。ここで声をはりあげて、まだあまり意志の疎通も出来ていない娘との関係を荒立ててはいけないと思ったのだ。しかしこんな可愛くも無いものを一体どうしたものか。悩んでいるところで目が醒めた。電車の中で本気で寝てしまい、おまけにはっきりと夢までみたのだ。まったくこのろくでもない夢。しかし醒めてもまたろくでもない現実。どんな手を使ってもこの改善は無理だろう。どちらかがまだましならともかく、両方ろくでもないのだ。

. 電車は蒲田の多摩川の鉄橋を渡っている。川原の笹薮にホームレスの小屋が点在しているのが見える。政治家はただ事務的なサービス業ではない。何かを新しく創り出して刷新して行かなければ成らない使命がある。しかしそんな事は昔の偉人伝の中の話のようだ。現実だけがどんどんと劣化していく。そしてそれにも麻痺してしまった国民のぼんやりした春。

. 浦島は海辺の田舎町の自宅付近の駅で降りてタバコに火を着けた。すでに6時を過ぎて周りは薄暗くなっていた。タバコは町中や駅では吸いにくくなっているので、へたすると2時間位は吸えない時があるのだ。駅前のコンビニの前にたむろしている田舎の落ちこぼれ達を横目で見て、店の前のすいがら入れにタバコを捨てる。そのコンビニの裏にあるスーパーの魚売り場に来た。都心へ出て妙に疲れ果てたので、酒のさかなでも買って帰って、一杯遣って早々と寝てしまおうと思ったのだ。しかし、取り立てて食欲をそそるものもなく、浦島は野菜売り場の方まで来てしまった。そこでなにげなく見たキャベツに小さな青虫が付いていた・・・・・

 0804011

. ・・・・・男は殺人罪の刑で30年間この宇宙ステーションに閉じ込められていた。

. 相変わらずの淡々とした日常。口を聞く相手といえば看守への「Yes,No」に限られていた。部屋に一つあいている丸窓からは、遥か地球が何時も青く浮かんでいる。これは一種のメンタルな刑罰なのだ。きみは帰りたくても帰れない場所が何時もそこに見えているとしたらどうするか。これは島流しにあった罪人の昔からの伝統で、海の彼方には何時も本土が見えていたのだ。

. その日の朝、固く千切れないフランスパンに添えられた、プラスティックのボールに入っていたレタスのサラダに男は、間違って地球から送られて生き延びている青虫を見つけたのだ。男はそれを洗面用コップの中にレタスの破片とともに入れ、生き延びさせようとする。男はこまめにそこに朝食のサラダの葉ものを入れるようになる。洗面には別にコップがなくても不自由はなかった。虫は日ごとに大きく成り、ある朝覗いた時、サナギに成ってコップのふちに自ら出した糸で体を固定して動かなくなっていた。男はなぜかそれが自分と地球を繋ぐ、唯一の生命の絆であるかのような妄想を感じ始めていた。「いや、これは妄想では無い。本当にこれは私に無害で無拓な地球からの客人なのだ。」男はそう思って洗面台の収納棚の一番上にそれを置いておいた。

. そしてそんなことも男が忘れかけていたころ、消灯後の青い月光差し込む、冷え冷えとした海底のような夜に、突然それは、男の青いイブニングドレスのパートーナーとなって、琳粉舞い散らせながら、丸窓のブラインドの、影の階段を滑るように舞い降り登場するだろう。その青い女は一晩中帰るべき星を探して、男の30年のダークな夢の舞台で舞い続けるのだ。そのメタリックな琳粉はキラキラと男の孤独を飾るだろう。その羽根はフワフワと男の夢に有機体の命を送りつづけるのだ。

. 浦島が青虫を見た瞬間にそんなストーリーが瞬時に頭を通過した。浦島は元々がファンタジアな傾向が極端でそれはプロの小説家並だった。

 080414

. ところできみは、サナギが急に飛び跳ねるのを知っているか。私にはそれが何時頃から身に着き、ある種類だけの能力かも知れない事も分からないのだが、知らずに摘んでみてびっくりした経験がある。おそらく鳥などを脅かすためだろう。昆虫には少なからずそういった類いの能力を持つものが多い。外敵から身を守る権利は虫にもあって当然だ。生きる権利は何も人間様だけの特権とは限らない。それに私の摘んだのはミルクコーヒー色の枯葉のような汚い色をしたサナギだったが、跳ねた拍子に裏向きになった芋虫の形態をを残している足の裏が、金箔を貼ったような金色だったのに二度驚かされた。この金色の成分は蝶の幼虫に予め内蔵されている色なのだろうか。これも恐らく私のような外敵を脅かすためだろうから、私は素直にそれに引っ掛かった事になる。飛び跳ねたサナギがどうしてまた木の枝に移動するのかは分からないが、それはそれで何か方法があるのだろう。私の心配する事ではない。

. 浦島は野菜売り場の隅の冷却棚に、時期外れの、こだまスイカの半分に切ったものを見つけた。390円だったので高くはないと思われた。種も少なかったので旨そうに見えた。恐らく温室栽培だろう。

 ウナギの蒲焼きをたまごで巻いたウマキが惣菜売り場にあったので、スイカといしょにかごに入れ、レジに向かった。そこに田舎のスーパーの歌謡曲のバックグラウンドが聞こえて来る。

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 あとどれくらい せつなくなれば あなたの声が聞こえるかしら 

. なにげない言葉を ひとみ合わせて ただ静かに かわせるだけでいい

. ほかには何んにも いらない

. 碧いうさぎ ずっと待ってる 一人きりで震えながら・・・・・・・

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. サナギ、うなぎ、ウサギが浦島の頭の中でグラグラと廻り始める。

. 「あら、すいか、もう出てたの、おいしそうね、安いしね。」

. レジのおばちゃんが馴れ馴れしく話しかけて来た。浦島は特別常連でもないし、おばちゃんの事も知らない。だいいち、おばちゃんは店の人間で、それは浦島のセリフなのだ。

. 「そう、安いよね、まだ少しはやいよね。」

. 浦島はどうでもいいような会話をして店を出る。夕凪で岬の街に風はなく、さくらはまだ、帰宅途中の道の、家の庭の柵の中で咲き誇っている。

. 家に着くなり直にTVのスィッチを入れた。何か出迎えて来る人であるかのように。

. 「青島チンタオ」のビールのびんのふたを開けながら「サナギ」という曲が流れているのに気が付いた。

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. 身体のうすい粘膜を直接 

. べたべたと触られるような 

. あなたのその無神経な指も ぞくぞくして嫌いじゃなかった

. でもいつだってあなたときたら 

. 放っておくとうそばっかり 

. 私の事をバカだと 初めから思っていたくせに 

. こんな日が来ると 思いもしなかったけど 

. まだそこにあなたがいる気配すら感じるの 

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. あなたがいなくなってからもずっと 

. 身体はサナギ色になって乾いて 

. 冬のさむい部屋で生まれ変わるの 

. まるでそれは美しい蝶みたいに 

. まだ濡れてるその羽根を 

. 誰かにだめにされないように

. 少しずつ開いて行くの 

. 空を飛ぶ夢を見て 

. そんな日がふいに遣って来るのだとしたら 

. その羽根で何処へ飛んで行けばいいかしら 

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. 家畜に名前がないようにあなたの名前忘れてしまうの 

. 思い出して泣いてしまうよりも 

. あなた自体を消してしまうの 

. そんな日が何時か遣って来るのでしょうか 

. あなたとの日々がもう赦されるのでしょうか   

. そんな日が何時か遣って来るのでしょうか

. すばらしい日々がいつの日か

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. 080419

. つぎの朝、渚で白いサギが、打ち上がった魚の身をつっつくのを見送って、身をくねって、打ち上がる波を避けながら、テトラポット近くの吾妻屋まで来た浦島は、iPodで「月の砂漠」を聞きながら、そう言えば昔知り合いだった女の子が、おやじが御宿の詩人だと言っていたのを思い出し、ひょっとするとその子は加藤といったので、この曲の作詞家かも知れないと思いつつ、自分に色々な思い出が、この頃急に押し寄せるようになったのも、「一種のヤバさ」の前兆かも知れないと思いつつ、ヤバいと言えばこれまでヤバくなかった事など結果的にはなかったと思いつつ、おんもへ出たいのは赤いはなおのみーちゃんで、ひもで結ばれているのは駱駝の瓶で、とにかくまだ寒く、春がはやく来てほしいと思った。

. だが銀の鞍はことのほか重く、駱駝と駱駝は、白い上着と上着は、二人並んで行くしか無いのだが、「やばい、やばい、霊しか見えない」と心の中で叫びつつ、ここへ来るといつもやってくる知り合いのペアのハトに、中国製のクラッカーを袋ごと粉々にしたものをばらまいてやった。

. 浦島は砂漠では寄り添うものも無く、唯一の目印であるシャドゥ−も動いてしまって頼り無く、道はどこにでもあり、あるいはどこにも無く、あまりの自由に身震いし、障害を抱えた我々こそが救われている事を思いつつ、鳶の影が地上のあらあゆるものを、滑るように通過するのを見ていた。

. 東京湾はこのところ少し暖かい日があったのを受けて、赤潮が出て、ここから見える長い砂浜の渚も、ピンクのリボンで飾った安っぽい泡のレースのテーブルクロス。

. ところでレースについてはフェミニンな、女性の下着のような、男の立ち入る世界では無いかも知れないが、本物の手編みのアンチックレースというものは、ヨーロッパでは一級の工芸品であり、浦島はなにかそこに一種の霊的なもの、ある種の女の図案化され、執念を編み込んだメモリーのようなもの、レントゲン的に透き通った半透明なマンダラのような構造を嗅ぎ付けていたのだ。それは喪服の婦人の隠されるべき顔色を覆うシャドゥ−、現実に直接触れる事のない高貴なレースの長手袋、それは時として風景をも包み込む霊的ヴァリアのカーテンとして出現するのだから。

. オーストラリアやポリネシアなどの南方原始民族の美術にもレントゲン絵画といわれるものがある。この民族のものの見方は初めからレース化しており、人も動物も植物も家もスケルトンである。事物は実体が希薄で空化しており、原始民族の生命力からは遠く離れている。しかしこれは物理の生命ではなく、霊的な生命力なのだ。浦島にも「霊しか見えない」と言ったのはその絵画の例がぴったりだと思われ、何か現実の風景にお化けのようなものが現れて来るのでは無く、リアルそのものが透明に見え、そこにその骨のようなものが垣間見える知性のようなものだと、浦島はその事を言いたかったのである。

. そんな舞台上でこれからなにが始まるのかは浦島自身にも分からない。

. 浦島は今まで自分が書き連ねて来たものは単に登場人物のプレゼンのようなものだと思っており、これからその人物達が、勝手に動き回り、じぶんには予測もつかない物語りが展開して行く事を予感していた。

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このページへの霊的リンク

1

碧いうさぎ(2007 Version)

酒井法子

アルバム「世界中の誰よりきっと」

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2

サナギ  

スガシカオ

アルバム「TIME」

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3

春よこい

アルバム「山吹」

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4

月の砂漠

アルバム「山吹」

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5

Clouds

田村夏樹 藤井郷子

アルバム「Clouds」

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御意見、進行についての御希望などお聞かせください。

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● ただ今かかっている曲はそらしま作の「東京0階のテーマ01」です。

(GarageBand 打ち込み、サウンド・コラージュ、エレクトリック・ギター、尺八、三味線、シンセサイザ−・ドラムス等の演奏は そらしま)