美術評論「 棚からターナー 共時性の絵画論  (up 20170128~)

宙州光垂  Sorasima Mitsutaru 著

                 02 喪失創出

 

              

              

   
 

         ジョセフ・マロウド・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner 1775−1851) 

1799年、24歳にしてアカデミー準会員、1802年、27歳でアカデミー正会員。この頃の自画像。カンバスに油彩

   
 

 

 

  

NO.b01     ターナー作 [海辺の日没、突堤] 

1840年~45年頃 厚紙に油彩 h25.8cm ×w 30cm

タナーの早すぎた印象派。

 

 

 画家 G.Mターナーは近代芸術の印象派や抽象表現主義を先駆けている。あまり注目されない小品の水彩画にもその痕跡を見ることができる。それはモネの睡蓮の抽象への到達の80年あまりも前のことである。最早何が描いてあるかも理解されなくてもいい勢いである。

 日本では北斎の頃の話である。北斎は印象派にも多大な影響を与えた事でも知られている。それ以前にターナが印象派設立のインスピレーションを与えたのは明らかであろう。

 

 

  

NO.b02      ターナー作 [建物の見える海岸]部分 

1840年 ~ 45年頃  厚紙に油彩 h30.5cm × w47.5cm

これはまだ具象的であるがNO.b01と同じ頃の作である。具象抽象の概念が世の中にもターナーにもまだなかったためである。

 

 

 しかしそれにも増して興味深いのはターナーの絵画が、ここでのテーマ「共時性の絵画」をも先駆けている事である。このことは前ページでも述べた、水彩画家のアレクサンダー・カズンズが、1750年頃から偶然の絵の具のシミを元にデッサンを自由に想像する手法を説いた「独創的風景構図草案の新手法」という説と、ターナーが出会ったことの影響が大きいと思われるのだ。この偶然性を創作に生かしていく手法は極めて現代芸術の手法に近いのだ。偶然性の芸術は現代芸術ではすでに市民権を得ており、前衛の座からは退いており、東洋の我が国ではすでに室町時代の昔から存在した手法であった。

 

 

  

NO.b03       ターナー作 [嵐の海とイルカ] 

1835年 ~ 40年頃 カンバスに油彩 h91cm × w122cm

右手オレンジ色の左下の突起物の集まりがイルカという事だそうだ。オレンジ色が何かは不明らしい。

 

 

 

 室町時代の頃、仏教の禅宗が起こり水墨画の手法が中国から入ってきて、日本の水墨画も完成度を高めていた。雪舟などの画僧が活躍し、それらの中にすでに「独創的風景構図草案の新手法」と同じ技巧を見ることができる。ターナーの生まれる300年前の事である。雪舟らの水墨画はターナーのスタイルをすでに秘めているのだ。そのぼんやりとした表面性の共通のみならず、手法的にも偶然性や「出象」性を早くも駆使している。

 あるいは和の芸術においては陶芸の窯変する釉薬に景色を見る感受性は、安土桃山時代に盛んになった「見立て」の一種だったのだ。あるいは江戸時代の日常雑器の陶器、工芸品や漆器などの絵付け職人は、毎日同じ絵付けを大量にこなす事により、その筆さばきは自動書記化されて、その図柄も抽象化していく。無意識の技法を取り込んだ芸術世界がすでに無意識的に我が国には存在したのだ。西洋でシュールリアリズのが立ち上がるはるか以前である。シュールリアリズムのコンセプトを日本芸術史で探っていくと、室町時代の能の完成時まで遡り、能が一種のシュールリアリズムの演劇であった事に思い当たるのだ。

 

  

NO.b04  日本のアンチィクな日常雑器 

時代は不明だが明治以降昭和以前だろう

印判ではなく、手彩色の染付である。墨絵の影響からきていると思われる図柄である。一方には庶民には浮世絵や錦絵のグラフィックなガッチリした線の美学があり、陶器にも高級品は伊万里風な糸目線を用いた手間のかかる柄も存在した。雑器に墨絵風が多いのはコストパフォーマンスという事であろう。

 

 

 シュールリアリズムからスタートしたフランス人芸術家マルセル・デュシャンが、東洋の美術を見て見ないふりをしたように、東洋美術史には、すでに西洋美術史が現代までに到達したあらゆる技法が秘められている。茶道の見立ての「レディーメイド」性、そのパフォーマンス性、ミニマルな建築性、作庭の体験性などにもそのヒントを見ることができる。 東洋の特に若い作家はそのことを知り、温故知新おんこちしん・古きを訪ね新しきを知るにより創造すべきなのだ。それは何も芸術に限ったことではないだろう。現代経済学では商品相場のシステムが日本の江戸時代の米相場から始まった、一種の予約の経済学だったことはよく知られている。

それはまさしく我々東洋人にとっての喪失創出そうしゅつそうしゅつ・失ったものを再び創造するであるのだ。

 

  

NO.b05  ターナー作 [浜辺の騎手たち] 

1835年頃 厚紙に油彩 h23cm ×w 30.5cm

この厚紙に描かれた小品は習作スケッチという説もある。

 

 

  

NO.b06 ターナー作 [難破船に向かう救命ボートとマンビー装置] 

1835年頃  h91.4cm × w122cm キャンバスに油彩

 下記の絵と比べると、それがこの大ぶりの絵の部分的なスケッチのように見える。マンビー装置とは難破船に岸からロープを投げる救命装置である。

 

 

  

NO.b07 ターナー作 [浜辺、海と突堤] 

1835年頃  h23cm × w30.5cm 厚紙に油彩

 夕焼けの砂浜を荒波が洗っている。朽ちた木組みが水に濡れている。波の中にはターナーの無意識なるアニマが見える。鑑賞者により勝手なストーリーを作り出せるのが名画と言える。

 

 

 鑑賞により作品を変えてしまう極めて現代的な鑑賞方法があるとすれば、それは鑑賞者からの芸術的な革命方法の可能性だと思われる。作家の意図しないコンセプト作品が新たに複数創作されるからだ。そこでは鑑賞者の数だけ作品があることになる。例えばNO.b07の作品の波の中に、ターナーが全く意図しなかった女の顔を見るのは、私の勝手な思い込みではあるが、そのことによりこの絵は全然違う作品へと変容してしまうのだ。

 そのような現代芸術の多様な価値観の変遷の中で、ここではターナー再考を軸として、現代芸術の可能性をもう一度反芻してみたい。

 

 

 

 

 

 Turnerb-01

 左図

 ターナーに対する私の興味は印象派の魁よりも見る者によって何にでも見えそうな私の造語であるところの「多意体」なる作品性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-02

 左図

 水彩絵の具はターナーの時代に発明された。それまでは画家は絵を描くために、まず絵の具を調合しなければならなかった。携帯用の水彩絵の具によりターナーは頻繁にスケッチ旅行に出かけている。ターナーの抽象性はスケッチの即興性にも原因がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-03

 左図

 ここまでくればもはや何が書かれてイルカは ? 問題ではなく、画面は平面化し、自然の「崇高」なるアクションのみが記録される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-04

 左図

 これは最近入手した安物の骨董雑器である。カケは金継ぎしてある。風景や事物は記号化し、浮世絵のようにリアルである必要性から離れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-05

 左図

 このページの作品はターナーの同じ頃の作品だが、その中で具象と抽象が揺れ動いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-06

  左図

 ターナーは海辺で絵を描くことが多かったので、数々の水難事故を目撃していて、そのことに関心が高かった。

 

 

 

 

 

 

 Turner-07

  左図

 作品の中にその作家の無意識を読み取るのは高度な鑑賞術ではあるが、それを行えば作家の意図する表現を超えて、作品は別の作品に変容していくのだ。

 

                     by  Mitsutaru Sorasima  201702    
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このページの音楽仕様

夕焼けの船出 2017/02

シンセギター

by Mitsutaru Sorasima

 

参考文献

 

タイトル 編集発行
1 ターナー展 1986年 国立西洋美術館
2

[知の再発見]双書128 ターナー 色と光の錬金術

2006年   (株) 創元社
3 世界の名画2 ターナーとロマン派風景画

1972年   中央公論社

5

世界美術全集 18 ターナー

1977年   (株) 集英社