美術評論「 棚からターナー 共時性の絵画論  (up 20170128~)

宙州光垂  Sorasima Mitsutaru 著

           03    四季目色墨

 

              

              

   
 

         ジョセフ・マロウド・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner 1775−1851) 

1799年、24歳にしてアカデミー準会員、1802年、27歳でアカデミー正会員。この頃の自画像。カンバスに油彩

   
 

 

 

 

  

NO.c01 当時発売された携帯用水彩絵の具(1832年発売)とそれ以前のターナー自作の旅行用パレット(下図) 

 タナーは年鑑を使って折りたたみのパレットを作り、旅行に持ち歩いている。

 

 

 画家 G.Mターナーは冬を避けて、せっせとヨーロッパスケッチ旅行に出かけている。それは携帯用の絵の具が発売された時期と並行している。現場では鉛筆のドローイングスケッチのみで、彩色は宿でなされることが多かったようだ。特に金には困っていないターナーは旅先で色々なものを失くし、帰宅時には出かける時の半分に荷物がなっていることも度々だった。中には大事なスケッチや絵画もあったようだ。ターナがアトリエのみで制作した従来のような画家であったら、即興的な絵画作品が抽象までに至らなかった可能性がある。現場ではじっくり描き込んでいる時間も余裕も無かっただろうから。さっさとラフに仕上げ、スッケチとして持ち帰ったのが、結果的に抽象絵画に近づいたのだ。

 

  

NO.c2    アレクサンダー・カズンズ著 [独創的風景構図草案の新手法] の中のイラスト 

1786年出版

 アレクサンダー・カズンズが、絵の具のシミを元にデッサンを自由に想像する手法を説いた「独創的風景構図草案の新手法」の本の中の、その手法を説明するイラスト。

 

 

 

 さて、ここで特出すべき画家アレクサンダー・カズンズの手法であるが、下記に示した日本の画僧雪舟の水墨画のように、ラフな墨蹟からリアルな風景のイメージを思い描き、創作していく手法だと言っていい。上のNO.C2の写真では少々見にくいが、初めは殴り書きのようなスケッチが、風景画になっていく過程を示したもので、その初めの図は下図我が国の水墨画とそっくりなのである。カズンズも東洋の水墨画を書籍で見ていてヒントを得た可能性もあるのだ。中国の水墨画はすでにヨーロッパに入っていたと思われ、雪舟の技法も元々は中国で習得したものだった。水墨画も下図のような画風を下絵として、さらに書き込んでいく画風も存在するので、その点でもカズンズの方法論とそっくりなのだ。

 

 

  

NO.b03  日本の水墨画

雪舟作 伝

室町時代

偶然的な筆跡は山となり森となり、草木となる。

 

 

 雪舟は雪舟と名乗る前(拙宗ー仮説だがこれがせっしゅうと読めることから同一人物である説が有力である)から、これらの画風を駆使していた。この画風は墨を跳ね散らかすという意味から溌墨はつぼく山水画と呼ばれ室町時代には玉澗風(ぎょくかんは南宋時代の有名な画僧)とされた。その狙いはミニマルな筆跡で広々と空間を出現させる事であり、そしてこれらの墨蹟が風景に見えるのは辛うじて描き込まれたワンポイントな具体物による。鳥や人物、家の屋根や水に浮かぶ船などを取り去れば、これらは単に墨の紙魚しみなのである。それを鑑賞者が風景とイメージしているだけなのである。鑑賞者は家のようなものが書かれているが故に山や森を感じ、船や人が書き込まれているので、海や川や岩をそこに見るのである。この鑑賞者のイメージを借りる創作法を進めて、私は「多意体」というタブローを発想してみた。見る者によって違つたものに見える抽象物である。これらは別の機会に発表出来ると思っているが、先の「干渉鑑賞」法と合わせて極めて現代芸術風な観念であり、見る側を主体とする芸術創造法なのである。

 

 

  

NO.b04 モネ作 [セーヌ川の朝] 

1897年  h81cm × w92cm キャンバスに油彩

 川の水面にミラー反転する霧のかかった風景。すでにこれは抽象画である。

 

 

 

 

  

NO.c5     モネ作 [睡蓮] 部分

1916年~26年 キャンバスに油彩 

三連  各 h200cm × w 425cm

これは三連の作品の初めの一枚。

 

 

  

NO.c6  モネ作 [アイリスのある睡蓮の池]] 部分

1922年~24年 キャンバスに油彩 h200cm ×w 600cm

 これは一点ものだが右のあと半分にアイリスが書かれている。

 

 

  

NO.c7     モネ作 [睡蓮、雲] 部分

1916年~26年 キャンバスに油彩 

三連 各h 200cm × w 4250cm

パリにある大作の睡蓮作品の最後の部分。

 

 

 上は画家 モネの有名な作「睡蓮」の部分図であるが、一番下の図に水面に映った男の顔が見えるのは私だけだろうか、あるいは女の顔を見る人もいるかもしれない。前ページでも述べたこの鑑賞法を私は「干渉鑑賞」と名付け概念化してみた。モネには申し訳ないが、元々モネは抽象的な美にたどり着いた美の求道者で、コンセプチュアルな発想はこの時代にはまだ無く、私の鑑賞法も思いもよらない事だろう。もし、私のような見方をすればこの絵はそれだけで、別のコンセプトをもつ作品になってしまい、モネの意図からは離れて、違つた何かを語り始めるのだ。

 

 

              

NOcb08      岐阜県関市板取「モネの池」

これは近所で評判の綺麗な池で観光客で賑わっている。

 

 

 

 

 

  

NO.c09  モネ作 [ウォータールー橋、霧の効果] 

1899年〜1901年 キャンバスに油彩 65cm × w100cm

 

 

  

NO.c10      モネ作 [印象、日の出] 

1873年  キャンバスに油彩 h48cm × w63cm

これら上下2点とも川の風景で海ではないが、まだまだターナーよりは具体的である。

 

 

 上図2点はターナー作と言っても分からないようなモネの作品である。ターナーは当時すでにこの境地にいたことになる。色彩配色センスはさすがにモネの方が上だが、本質はそこではない。モネの到達した場所はカラーの墨絵の風景が霧でかすむ幽玄なる処で、ターナーはもっとその先に、錬金術的な色彩学のコスモロジィーを見ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turnerb-01

 左図

 当時発売された携帯用水彩絵の具(1832年発売)とそれ以前のターナー自作の旅行用パレット(下図)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-02

 左図

 「独創的風景構図草案の新手法」の本の中の、その手法を説明するイラスト。本からの引用写真で折り目のために見づらいことをお詫びする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-03

 左図

 雪舟作の溌墨山水図。玉澗風。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-04

 左図

 これはモネ作の「睡蓮」の以前に川面を描いた作品である。霧や霞が抽象性の重要な要素になったことがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-05

 左図

 「睡蓮」描いた一連の作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-06

  左図

 「モネの池」の愛称がある近所で評判の池。最近は観光バスも立ち寄るようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Turner-07

  左図

 対象物の主役は霧や逆光であるモネの作品。

                     by  Mitsutaru Sorasima  201702    
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このページの音楽仕様

黄昏の曳航 2017/02

シンセギター

by Mitsutaru Sorasima

 

参考文献

 

タイトル 編集発行
1 ターナー展 1986年 国立西洋美術館
2

[知の再発見]双書128 ターナー 色と光の錬金術

2006年   (株) 創元社
3 世界の名画2 ターナーとロマン派風景画

1972年   中央公論社

5

世界美術全集 18 ターナー

1977年   (株) 集英社